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子ども診察室の窓から

2004年6月より2005年8月まで、毎日新聞に連載した育児に関する記事です。一人の親としての、また小児科医という立場での様々な経験を書いてみました。毎日新聞さんのご厚意によりこのホームページに掲載させていただきます。参考にしていただけましたら幸いです。

抱っこ1
img抱き癖は気にしないで

 ユリさんには生まれて間のない赤ちゃんがいます。少々ぐずっても、抱っこすると赤ちゃんはすぐに泣きやみます。ところが、あるとき友人から「泣いたからといってすぐに抱っこするのはよくない。抱き癖がつく。甘やかしになる。少しは泣かさないと肺がきたえられない。」といわれました。

 ためしに、泣いても抱っこせずに放っておいてみました。 すると、赤ちゃんの泣き方はどんどんエスカレートしていきます。赤ちゃんの泣き声を聞いていると、こちらまでイライラしてきます。赤ちゃんがかわいそうなような気がします。

■ 抱っこすることは甘やかしなの?

 テレビでは少年犯罪がセンセーショナルに報道されています。ユリさんはどうしたらよいのかわからなくなりました。一般に、「抱っこ」は「甘やかし」「わがままになる」という誤解があるようです。また、「抱き癖」という言葉もよくつかわれます。これは一昔前に欧米から入ってきて流行した育児法の影響です。

 今では、赤ちゃんの方面からの研究がすすんで、このやり方は見直されるようになってきました。 そして、抱き癖は気にする必要はない、また、泣いてすぐに抱っこすることは甘やかすことにはならない、わがままになることもない、泣かすことで肺をきたえることにはならないと確認されています。

 そして、泣けばこまめに抱っこすることが推奨されています。そうすることで赤ちゃんと母親とのしっかりした信頼関係を育てるといわれているのです。 こまめに抱っこをしている赤ちゃんと、泣かせっぱなしにしている赤ちゃんとでは、泣き出して抱っこした場合、泣きやむまでの時間がちがうというデータがあります。 こまめに抱っこしている赤ちゃんの方が短いのです。 赤ちゃんのときに、要求に応えてもらえるという経験をくりかえすことで安心感が育っていきます。親を信頼するようになります。

 イギリスの有名な発達小児科医のイリングワースは、子どもの追跡調査をまとめた著書「ノーマルチャイルド」の中で、「2~3歳までに泣くことが少なければ少ないほど、その後の子どもの時代は幸せになるはずである」と書いています。 十分な安心感、信頼感があって始めて、外に冒険にでかける強い子ども、チャレンジする子どもの「土台」ができるのです。

 けれども、子どもは育て方だけでなく持って生まれた性格というものもあります。どんなに安心させてあげても不安の強い赤ちゃんもいます。

 これは仕方のないことです。できることをしてあげたら、あとは成長を見守りましょう。 また、家の事情などで十分に抱っこできないこともあるでしょう。できる部分でしっかり「抱っこ」をして愛情を伝えるようにすれば問題ありません。

2004年9月11日毎日新聞掲載分より加筆修正 牛田美幸

先生プロフィール
牛田 美幸 うしだ みゆき
四国こどもとおとなの医療センター 児童心療内科医
小児科専門医/小児神経専門医/子どものこころ相談医/日本小児精神神経学会認定医

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